ジャケ写 “Welcome Back”
By John Sebastian (Music CD)
古き良きアメリカをイメージさせる良質の音楽
その人柄そのままのハートウォームな歌と演奏
 古き良きアメリカを感じさせるハート・ウォームなサウンド... 今日ご紹介するのは元ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンがソロで残した作品集『ウェルカム・バック』
 ジョン・セバスチャンを語るためにはまずラヴィン・スプーンフルというバンドを語らなければならないだろう。ニューヨークで結成されたラヴィン・スプーンフルの前身はマグワンプスというフォーク・グループ。マグワンプスの中心人物はジョン・セバスチャンとザル・ヤノスキー。当初はキャス・エリオットとデニー・ドハーティーという人達も在籍していたいたが二人がママス&パパスを結成すべく脱退したのを機に編成が変わり、ラヴィン・スプーンフルが誕生した。
 幸か不幸か、1965年にリリースされた彼らのデビュー・シングル「魔法を信じるかい?」がいきなり全米9位の大ヒットを記録、彼らの躍進が始まった。当時ビートルズやローリング・ストーンズが英国から侵攻、世はサイケデリックの嵐が吹き荒れアメリカからもバーズらのバンドがそれに対抗していた時代であった。だがそんな中でラヴィン・スプーンフルの提示した音楽というのは、非現実的というか、アメリカの中流家庭の人達が心に描いている“古き良きアメリカ”をイメージさせるものであった。緊張した時代に投じられた一服の清涼剤... 人々はラヴィン・スプーンフルの音楽を“グッド・タイム・ミュージック”と称してもてはやした。
 「うれしいあの娘」(10位)「デイ・ドリーム」(2位)「心に決めたかい?」(2位)「サマー・イン・ザ・シティー」(1位)... 彼らは全米でヒットを連発、さらに英国においても人気を博した(あるHPではその理由を“多くのイギリスのロック・ミュージシャンたちが憧れていたアメリカン・ポップスの原点だったから”と分析していた。納得である)。だが好事魔が多し。ザルがマリファナ所持で逮捕されたのだ。明るく健全なイメージで売っていたバンドにとっては致命的な事件である。ザルはそのまま脱退、バンドはメンバーを補充し活動を継続したがもはや魔法は解けてしまったのである...。
 さてここでジョン・セバスチャンである。ラヴィン・スプーンフル時代、彼はボーカリスト、ハーピスト(ハーモニカ演奏者)として、中心的ソング・ライターとして活躍、ザル脱退後もバンドの再建に尽力したが果たせず1968年に脱退した。彼の才能からすればソロアーチストとして十分やっていける余地があったと思う。だが彼が作成した最初のソロ作品集「ジョン・B・セバスチャン」はレコード会社から“ラヴィン・スプーンフル名義でリリースせよ”と圧力がかかり紛糾、大混乱の中でセールス的には大失敗、その後リリースされた作品も不発でいつしか彼の名前は忘却の彼方に押しやられてしまったのである。
 ジョン・セバスチャンは現在も隠遁者のごとき生活を送っている。ウッドストック方面に住み時折クラブで演奏したり、レコーディングにやってくるアーチストの依頼でハープ担当セッションマンとして参加したり(何を隠そう日本人アーチスト、佐野元春の作品集にも参加したことがある)。だがそんな彼が一瞬輝いたことがあった。それが1976年に発表された作品集『ウェルカム・バック』だ。
 これはTVドラマの主題歌であるタイトル曲を中心に構成された作品集である。オープニングは2枚目のシングルにもなった軽快な「ハイダウェイ」。あの明るく健康的なサウンドがはじける。ちなみに作品集を通してバックを務めるのはジェフ・ポーカロやデヴィッド・ハンゲイトらTOTO勢。さすがに音はしっかりしている。2曲目は“グッド・タイム・ミュージック”そのままの「シーズ・ファニー」。ハートウォームなボーカルがミディアム・テンポで流れる。4曲目に収録された「ディドント・ワナ・ハヴ・トゥ・ドゥ・イット」はラヴィン・スプーンフル時代のカバーらしい。残念ながらオリジナルを知らないため比較が出来ないが心に響く曲であることは間違いない。カリプソタッチの「ワン・ステップ・フォワード・ツー・ステップス・バック」に続く6曲目はタイトル曲の「ウェルカム・バック」。1976年5月に全米チャートでナンバー1を獲得、ジョン健在をアピールした。ピアノとアコースティック・ギターが絡む短いイントロからハンドクラップも軽快にボーカルに入る。途中の絶妙なハープソロを経てタイトル連呼のエンディングへ。演奏時間2分45秒の魔法... 追い打ちをかけるように続くのは「愛は別れのかげに」は非常にアメリカ的な、どことなくザ・バンドを彷彿とさせる作品。またここでは絶妙のハープ・プレイを聴くことができる。8曲目の「ア・ソング・ア・デイ・イン・ナッシュビル」はその名から想像できるとおりカントリーソング。ドゥービー・ブラザースのジェフ・バクスターが味わい深いアコースティック・ギターを聴かせてくれる。再びラヴィン・スプーンフルのカバー「ウォーム・ベイビー」を経てエンディングは素晴らしいハープのソロから入る「二人になろうよ」。何となくジョン・セバスチャンという人の全てがこの曲に凝縮されているように思えてならない、素晴らしい曲・演奏... そんな印象的な余韻を残して作品集は幕を閉じる。
 TVドラマの主題歌がヒット!というたまたまのきっかけにレコード会社が飛びつき制作されたのが『ウェルカム・バック』の真相であろうと思う。その証拠に以降作品集はリリースされていない。だがここに記録されているのはまさに古き良きアメリカをイメージさせる良質の音楽。その人柄そのままのハートウォームな歌と演奏に癒される人は少なくないはずだ...。
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