ジャケ写 “Fisherman's Blues”
By Waterboys (Music CD)
手にとり興味を持っておっかなびっくり購入...
これは出会って良かった、と思える貴重な1枚
 多少パンク繋がりもあるのだろうか? だが聴いてみれば全く異なる世界が広がる。今日はウォーターボーイズの『フィッシャーマンズ・ブルース』をご紹介したいと思う。
 今日ご紹介するCD『フィッシャーマンズ・ブルース』を購入したのは東京のバージン・メガ・ストアだったと思う。当時東京に単身赴任していた私は暇つぶしのため頻繁にこのレコード店に足を運んでいた。店で見かけたのか、店が配布しているレヴューに乗っていたのか、いずれにしても1995年頃の話である。だがこの作品集のリリースは1988年である。
 グリーンをベースにしたジャケットの真ん中にセピア色になったメンバー達の写真がはめ込まれている。非常にカントリーな雰囲気である。ただしウォーターボーイズは1983年、マイク・スコットによりスコットランドで結成された。当初はパンクの気配を漂わせたニューウェーブ系のバンドでその音感からU2などと同系列に扱われることもあった。だが3枚目の作品集「ジス・イズ・ザ・シー」にスティーブ・ウィッカムが客演したことがバンドに、というよりもマイク・スコットに大きな影響を与える。ウィッカムはフィドル奏者であり、あのU2の印象的な名曲「サンデイ・ブラディ・サンデイ」のフィドルも彼の演奏。かくしてウォーターボーイズはアイルランドの伝統的な音楽を演奏するバンドに変身、『フィッシャーマンズ・ブルース』のリリースとなる。
 冒頭のタイトルトラック「フィッシャーマンズ・ブルース」はゆったりした曲調にフィドルが絡む。淡々と叩かれるスネア(ドラム)の音が特徴的。マイク・スコットの声も大変良い。実のところ何か特別な仕掛けがある訳ではないのだが心に染みいる。「偽りの愛」はちょっとU2っぽく聴こえるがフィドルのお陰であろう。長尺な演奏だが退屈しない。アイリッシュ・トラッドの包容力というべきか? 「ワールド・パーティ」はギターの音などかなりU2っぽい。ちなみに今ひとつ情報がない同系のバンドにレヴェラーズというのが挙げられる。やはりフィドルなどの民族楽器がフューチャーされつつアコースティックながら結構パンキッシュな音を出しているバンドだ。恐らく彼らはウォーターボーイズ・フォロワーに違いない。
 「ストレンジ・ボート」がアズテック・カメラあたりに通じる瑞々しさを持っている一方、「スイート・シング」やインストの「ジミー・ヒッキーズ・ワルツ」、「結婚はいつするの?」などはカントリー風味満点である。もちろんカントリーと言ってもアメリカのような雄大な印象はない。故にこの音は我々国土の狭い国に住んでいるものにとって馴染みやすい音でもある。
 「突然の告白」は軽快な演奏である。でも音が柔らかくて間違いなく癒される。スローナンバーの「ハンクを見たかい?」や「ホエン・ユー・ゴー・アウェイ」も同様である。だがこうやって順番に作品集を聴いていくとはたと思い当たる。どれも同じような曲ばかりやないか??? だが損したような気には全くならない。きっかけは何にせよ手にとり興味を持っておっかなびっくり購入、聴いてみた作品集としては上の上である。
 ウィッカムのフィドルが冴える軽いインストの「ダンフォーズ・ファンシー」。このフィドルがやはり要なのだろう。ウォーターボーイズはこの後アイリッシュ・トラッドな作品集をもう一作発表後したが突然マイク・スコットがニューヨークに移住、ロックに回帰したためウィッカムは脱退する。だが『フィッシャーマンズ・ブルース』が持つ永遠の輝きのようなものは色褪せない。じっくり聴かせる「盗まれた子供」を経て家の居間で皆が集まって録音したような「我が祖国」でこの素晴らしい作品集は幕を閉じる。そして今年2014年のフジロック・フェスティバルの2日目にウォーターボーイズが登場。さらに近年この作品集の録音時の全音源をまとめた6枚組ボックスセット(?!)が発売されるなど再評価の機運が感じられる。これは出会って良かった、と思える貴重な1枚である。
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