ジャケ写 “Armed Forces”
By Elvis Costello (LP Record)
ただのパンクロッカーではなかった...
実は非常に幅広い音楽的バックボーンを持ったアーチスト。
 いやいやいや〜夏が本格化してきたが皆様は如何お過ごしであろうか? 一応梅雨は明けたや明けんや、という状況ではあるが京都の湿気は未だ濃厚である... さてそれはさておきニューウェーブ特集の第2回は一風変わったアーチスト、エルビス・コステロと彼の三枚目の作品集『アームド・フォーセス』をご紹介してみよう。
 それにしてもエルビス・コステロという名前、なかなかインパクトがある。デクラン・パトリック・マクマナスという本名では憶えにくいし、ロックアーチストとしては全然カッコ良くないので偽名を使う意図もよくわかるのだが、よりによってロックンロールの神様と言われるエルビス・プレスリーから拝借するとは! しかもロイド眼鏡をかけたその風貌はこれまた有名なロックンローラー、バディ・ホリーそっくりと来ればその厚かましさも半端ではない。そんな彼がパンクブームもかなり息切れ状態に陥っていた70年代終盤の英国で“なんか文句あんのかい!”といった不機嫌な表情で斜に構えてデビューした時には大きな注目を集めたものであった。
 さてそんなコステロのデビュー作品集「マイ・エイム・イズ・トゥルー」は本国はもちろんアメリカでも大ヒットを記録した。さらっと聴けば“凄い新人やったんやなぁ”で終わってしまうのだが、英国のニューウェーブ系アーチストがアメリカで成功するということは当時としてはかなり異例のことであった。
 一見社会に対する怒りをシニカルな歌詞とビートの利いたロックサウンドでぶつけるコステロだが、実は非常に幅広い音楽的バックボーンを持ったアーチストである。デビュー作品集収録のカントリー風味漂うバラード「アリスン」はアメリカの国民的シンガー、リンダ・ロンシュタットにカバーされヒットも記録した。またいくつかのナンバーにはR&Bの影響が濃厚でアメリカ人のフィーリングにマッチしたということも言えるであろう。コステロがアメリカで成功を収めることが出来たのは、やはり彼の音楽性によるところが大きいと私は思うのである。
 さてここで3枚目の作品集『アームド・フォーセス』である。アメリカで最も高いセールスを記録した作品集は自身のバンド、アトラクションズを従え非常にポップで、時にはテクノの香りも漂わせるロックンロールを聴かせる。英国で大ヒットを記録した「オリヴァーズ・アーミー」や「アクシデント」を始め、哀愁漂うスローナンバー「パーティ・ガール」、キッチュな魅力をたたえた「トゥー・リトル・ヒットラーズ」など質の高い楽曲が目白押しで聴きごたえのある仕上がりである。これら楽曲のタイトルだけを見ても、全然真っ直ぐではなく、どこか捻りのきいた歌詞が想像できるが実際にそのとおりで、デビュー当時の勢いそのままに音楽的にはさらに進化をとげたコステロに会える充実の作品集である。
 やはりただのパンクロッカーではなかったコステロは今も第一線で活動を続けている。『アームド・フォーセス』以降もサム&デイヴのカバーを始めR&Bに真っ向からチャレンジした作品集や、自身大好きだと公言するカントリー風の作品ばかり収録した作品集をリリースしている。また近年はさすがに角がとれておとなしくなった感は否めないものの、管弦四重奏楽団と競演、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」を題材とした作品集や、あのポップス界の大御所、バート・バカラックと共作したゴージャスな作品集をリリースしている。またポール・マッカートニーと共作したナンバー「ヴェロニカ」はコステロとしてはアメリカで最も高いチャートアクションを記録した。
 コステロをあまりよくご存知ない方も映画「ノッティング・ヒルの恋人」の主題歌「シー」という美しいバラードは聴いたことがあるのでは? あの曲を歌っているのもエルビス・コステロなのである。あの渋いボーカルからはとても初期のコステロを想像することは出来ないが、とにかく豊富な音楽素養を持った彼ならではの経歴を少しご紹介してみた。でももし彼の作品集を入手したいと思われる方がいるなら迷わず推薦したいのが『アームド・フォーセス』。絶対損はしないと断言しておきたい。

※次回はOMDをご紹介します。お楽しみに。
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